会長所信

会長所信

2023年6月14日
全国地方銀行協会
会長 五島 久

全国地方銀行協会 五島 久

国内経済は、資源高の影響を受けつつも、社会活動の正常化や賃金上昇に伴う個人消費の改善にも支えられ、緩やかな回復が続くと考えています。
 一方、地域において人口減少や高齢化などの構造的な課題を抱える中、内外金利の動向に加え、米国地銀の破綻や長引くウクライナ侵攻など海外発のリスク要因も燻っており、地方銀行を取り巻く環境は、先行きが不透明な状況が続いています。
 また、技術革新の融合によるデジタル化の進展や、SDGsへの意識の高まり、コロナ禍がもたらした消費行動や働き方の変容など、社会は加速度的に変化しています。

このように不確実性が高く変化が速い環境の下、我々地方銀行は、自らの存在意義(パーパス)を見つめ直し、環境変化やリスクへ着実に対応する一方、変化を機会と捉え、新しい価値の創出に向けた様々な取り組みを行っています。
 本年は全国各地に銀行が開設され始めて150年の節目になります。長い歴史の中で培われた地域のお客さまからの「信用・信頼」は、我々地方銀行にとって何物にも代えがたい財産です。この財産を礎に、従来提供してきた強みである「安心・安全な金融機能」の高度化を推進しつつ、これまでにない新しいチャレンジにも積極的に取り組み、日本ならではの地域金融を届けたいと考えています。

全国地方銀行協会は、「地方銀行の健全な発展を通じて金融経済の伸長に寄与し、もって公共の利益を増進する」という設立目的のもと、会員である地方銀行による以下3つの取り組みを積極的に支援し、持続可能な地域社会の実現に貢献することで、地域社会における地方銀行のさらなる存在価値の向上に努めます。

地域社会が豊かになるための取り組み

我々地方銀行の存在意義は、地域社会を豊かにすること、言い換えると、地域のお取引先企業の成長や、個人のお客さまの豊かさ向上を後押しし、持続可能な地域社会の実現に貢献することにあります。
 そのため、ゼロゼロ融資の返済が本格化する中、コロナ借換保証制度や政府系金融機関の資本性劣後ローン等も活用しながら、引き続きお取引先企業の実情に応じた資金繰り支援に万全を期すとともに、収益力を向上させる本業支援や事業再構築支援など、お取引先とゴールを共有しながら伴走支援を行ってまいります。また、生産性向上に向けたデジタル化支援にも注力してまいります。
 加えて、お取引先企業との深度ある対話や地方自治体との連携を通じて、地域におけるSDGsの普及・促進に努めるとともに、お取引先の気候変動対応への支援やサステナブルファイナンスの推進などに取り組んでまいります。
 個人のお客さまに対しては、お客さま本位の業務運営を徹底し、新しいNISA制度やiDeCoを活用して、長期安定的な資産形成のニーズに対応するとともに、金融経済教育を通じた金融リテラシーの向上にも貢献してまいります。
 さらに、お客さまがより安心・安全に金融取引を行えるよう、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策やサイバーセキュリティ対策の一層の強化にも取り組んでまいります。

会員銀行の健全な成長に資する取り組み

地域社会が豊かになるための取り組みを実践していくためには、我々地方銀行自身も健全に成長していくことが必要です。
 そのため、コーポレートガバナンスや信用・市場リスク管理態勢の強化、非財務情報の開示充実等を通じて、経営管理を高度化してまいります。
 また、環境の変化とともに地方銀行の事業領域が拡大する中、性別や年齢、価値観、経験、専門性等が異なる人財の活用など、経営戦略と人財戦略が連動する人的資本経営の重要性がますます高まっています。
 こうした認識のもと、行員の能力向上や能力発揮を企図した人財育成、多様な人財の活躍を支えるダイバーシティ&インクルージョン、組織の心理的安全性の向上を一層推進してまいります。

新しい価値の創出に向けた取り組み

国内外において新しいテクノロジーが次々に登場し、また国内でも銀行グループの業務範囲規制が緩和されたことで、地方銀行は以前に比べると新しいことへ挑戦しやすい環境にあります。新しいサービスをお客さまに提供し地域の事業基盤を維持していくことは、地域社会への貢献を使命とする地方銀行にとって重要です。
 そのため、新しいテクノロジーや業務範囲規制の緩和を活用して、既存サービスの革新によるお客さまの利便性向上や、新しいビジネスの創出による新たな価値提供に取り組んでまいります。

全国地方銀行協会は、各種関連事項の調査・研究、会員である地方銀行間の情報・ノウハウの共有、関係省庁や他業界との連携、地域活性化に資する要望等を通じて、会員各行の取り組みを積極的に支援してまいります。
 また、銀行業務の非競争領域において、地方銀行間におけるデジタル技術などを活用した新たな共同事業の可能性についても、検討を進めてまいりたいと考えています。
 こうした取り組みを通じて、業界全体のレベルアップを図ることで、地域の皆さまのお役に立てるよう、誠心誠意努力してまいります。

以 上